【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。



有りもしない無茶苦茶なことを考えるほど切羽詰まった気立て状態の中。


「それなのに、どうして……?」


今この場で、『この人に会えなければ良かったのに』という逃避だけは、微塵も頭を過る事はなかった。



「どうしてまた、」


怖い。息苦しいほどに。辛い。


だけどそれ以上に、この人への言い知れない、溢れるほどに暖かいこの感情に勝るものは存在しなくて。


「僕を置いていくんだろうね」


狂気の狭間に見え隠れする、純粋で切なな訴え。


息を潜めたと思った、戸惑いを孕んだ彼の、本当の顔。


「どうしてまた、」



私に見せてくれた、優しくて慈愛に満ちた、揺らぐ眼差し。


懸命に自分を保とうとしているようにも見て取れる。


とてもとても悲しくて。



「忘れてしまうんだろうね」


とてもとても、愛おしい——…。




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