【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。
耳元で囁かれた、問い掛けているはずなのに独り言にも聞こえる呟き。
ビクリと、体が不自然に揺れる。
純くんを追い抜いたところで、足は強制的に止めさせられた。
今、振り向いたらいけないと。
頭では分かってるのに、言うことを聞かない体はゆっくりと反転する。
誰が見ても人の良い、気品漂う穏やかな顔で笑っているけど。
ただ、目が合っただけなのに……
どうして、体中に痺れるような寒気が走るの。
この人からは全く感情が読めてこない。
冷え切った瞳の底で捕らえて離さない。
写っているのは私。
何を考えているのか皆目見当がつかないけれど。
きっと内心真っ黒だろう彼に、いつだって怯えてしまう。
知っていた。
分かってた、この人は。
純くんは全部。
虫も殺さないような微笑みにまんまと私は騙された。