【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。
悩み苦しむ彼を救えない。救わない。
あげく見放した。
そんな愚かしい私に優しい彼は、一言。
「泣かないで」
今にも消えてしまいそうなくらいに儚く、自嘲を添えて微笑んだ。
さっきまでの狂気はどこへ行ったんだろう。
もう、見る影もなかった。
「僕はまだ、大丈夫。今まで耐えてやってきた。
あと少し。もう少しだけ、頑張れるから」
——だから、心配しないで。
最後にそう言って出て行った彼の真意は分からない。
だけど含みのあるその言葉の意味を知るのはそう遠くない事だと、根拠のない確信が生まれた。
戸惑いながらも見送ったその後ろ姿は何よりも小さく、弱々しいものだった。