【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。
「榎本くん、人当たりはいいし頭はいいし、誰にでも分け隔てなく接するからすごく人気があるんだよね。
そりゃもう、非の打ち所がないくらいにね」
気丈な声音に漂う不穏な含み。
あれ、ダメだ。なんて思った。
知ったらいけない。
「だけど前からあたしね、思ってた」
聞いちゃいけない。
きっとすごく、ダメなこと。
「変だよ。……だって、」
呟かれた言葉。
「まるで作り物みたいに完璧すぎて、あの人すごく、怖い」
自身を抱きしめるように腕を回して、肩を震わせる。
そんな姿に嫌な汗が噴き出してくる。
……寒い。背筋が、凍りそう。
「生きてるのか死んでるのか分からないって本気で思うよあたし。
あの笑顔、ぞっとする」
これ以上は、もう……無理だと思った。
「なんなの…?」
警告音が頭の中でけたたましいサイレンのように鳴り響く。