【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。
おかしなことは何もない。
何も、考えなくていいから。
聞かれたら、冷静に。
戻る道すがら、何度も言い聞かせて、何度も何度もシミュレートした。
もう大丈夫だと、深呼吸してドアに手をかけたその先は、ある意味で予想内の出来事だった。
「———し…の……わ…し……何か……」
「———は…?……んだ、よ……俺……なに…」
話し声が聞こえる。
けど、途切れてまともに聞き取れない。
うっすらドアを開けると、はっきりと鮮明に会話が耳に流れてきた。
「だからあんたは俺に何させたいんだよ。意味分かんねーことばっか捲し立てられて、話が一向に見えてこない。
もっと簡潔に話せって」
「だから、2年の榎本くんって知ってる?」
「知ってるって言ってるだろ。何回聞けば気が済むんだよ」