【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。
甘い囁きはねっとりと絡みついてくる。
聴覚を通して伝えられているのに、まるで感覚は私の体を縛り付ける。
分かっていた。
純くんの言葉は、決して私を焦らしているわけじゃない。
裏を返して、『逃げるな』と私に警告しているのだ。
真意が容易に汲み取れる頭ごなしな物言いは、私にただ一つだけの大きな恐怖を与える。
視線だけなのに、飲み込まれそうなほどに圧力が重くのし掛かる。
怖くて怖くて怖くて怖くて……
言葉じゃ表現しきれない。
どうしようもなく逃げたくて、けど、どうすることもできなくて。
ただ、怖いの――。
頭を埋め尽くす恐怖。
そんな私の心情に確信を持ったのか、鋭く光る眼光を緩めてゆったりと瞳を細めた。
「じゃあ、またあとでね。ヒメ」
もはや怯えきった私を気にする素振りも見せず、軽やかに階段を降りて行った。