【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。


その後、ふと自然に、寝起きにするのが当たり前のようなゆったりとした動作で周りを見回して、ようやく自分以外の存在がある事に気付いたらしい。


交わった視線。


私を見据える瞳には、少しの動揺と驚きが覗き伺える。


しばらく沈黙した後、徐々に寄っていく眉間の皺。


そして。



「……なんか用?」


その可愛らしい容姿に似つかない低い声を喉の奥から押し出して、ひどくぶっきらぼうに言う。


初対面の相手、ついで年上に対して生意気とも取れる堂々とした態度に、今度はこちらが驚かされた。


「……別に。何も」


別段、用と言えることもなかった私は素直に応じた。


当然、性別を間違えてしまったさっきの非礼は胸の内に留めておく。


きっと、今言ったらいけないこと。


睨まれても怖くはないけど、とにかく面倒は避けたい一心でそっと目を逸らした。


< 57 / 160 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop