【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。
自分の名前を呼ぶ、知ったような声に廊下を歩く足を止めて、丁度すれ違ったばかりの人物に目を向ける。
「え、と……香川、くん…?」
見知った顔で、以前強烈な印象を受けたはずなのに一瞬名前が出てこなかった相手は、本の話で意気投合した何時ぞやの男の子。
疑問符をつけて、合ってるかと視線で確認する私に、彼は呆れたようにため息を漏らした。
「お、前な……自己紹介した奴の名前くらい覚えとけよ。
仮にも一度会ってるんだぞ」
仮にも……って、いうのは少しばかり頂けない。
私の存在はそんなに印象が薄かったんだろうか。
とはいえ、私も人の名前を忘れかけていたからか、弁明する気さえ起きない。
曖昧な笑みを返してから、香川くんの横にいる人物に気が付いた。
友達だろうか、奇抜にも映る明るい茶髪に、釣り気味の目。
見れば左耳に2つ、右耳に4つのピアスが光っている。