【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。
「――…おい?大丈夫か?」
肩に乗せられた手。
咄嗟に振り解きそうになったけど、相手を目睫に確認して慌てて上げかけた腕を下ろす。
そんな、私の行動に目を瞬かせた香川くんの顔色は、不審の念へと変化した。
「お前……」
「ご、めんなさい……実は朝から気分が悪くて……。少し、無理しすぎたのかも」
無理やり上げた口角。
頰は引きつり、表情は硬い。
言いかけたその先の反応が怖くて、反射的にそれを遮る。
口からすらすらと飛び出した嘘は、相手に答えさせる暇も、私に考える一息さえ与えない。
「本、借りてく。ありがとうね。じゃあ、体調悪くしたくないし……私、もう行くから」
「おい、ちょ…」
「さよなら」
早口に、まるで嵐が過ぎ去るようにあっという間に。