【改訂版】キスはする。それ以上も。けど、恋人じゃない。
「事故にあって4日間、目を覚まさなかったのよ貴女。幸いにも外傷はほとんど無くて良かったけれど……
覚えてるかしら?」
聞いた私はただ、自身の耳を疑いながらも、半ば他人事のように遠く考えて呆然とする。
事故……?
目を覚まさなかった……?
一体、何の話をしているのか全く読めてこない。
まるで今まで記録されてきた数値全てを誤って全消去してしまったような感覚を覚える。
記憶を探っているのに、頭の中は妙にクリアで。
あれ、と奇妙なことに気付いた。
「私……誰、でしたか……?」
信じられないことが身の上に起きている。
記憶を起こそうとして同時に伴うはずの自分の名前が、思い出せなかった。
これには流石の看護師さんも困惑顔で、「ちょっと待っててね」と一言残し、部屋を出て行く。
静寂の訪れた場で待つ事しかできない私は、何度も思い出そうと試みたけど、無駄だった。