桃の花
「すみませんっ、ありがとうございます。」
「いえいえ、どーいたしまして!」
その人は私を両手で支えて、立たせてくれた。
「お嬢様、大丈夫ですか⁉︎」
「大丈夫です、心配ないわ。」
「お嬢様…?」
私たちのやりとりに男の人は疑問をもつ。
(ちょっと、木戸!“お嬢様”って呼ばないでよ!私の正体がバレるじゃない!)
(すいません、適当にごまかしますから。)
「あんた、お嬢様なのか?」
「違います、彼女は花房美琴(ハナブサ ミコト)と言って、俺の幼馴染なんですけど、ここらで有名な花房家と同じ名前だったんで、からかってたんですよ。そしたら、そのまま声にでちゃったんですよ。」
よくもまぁ、こう嘘がペラペラ言えるものね。
いつどこで使ってるのかわからないわ…。
「へー、なるほど。それにしても、珍しい名前だな!俺は水島 俊(ミズシマ シュン)、その制服俺と同じ学校にだろ?また、会おうな‼︎」
じゃあ、と手を振りながら水島と言う人は去った。
「馬鹿な人…。」
あんな下手くそな木戸の演技を信じるなんて。
「そうですね。」
「ーーそんなことより、私を“お嬢様”って呼ばないで!」
せっかくの私のスクールライフが台無しになるところだわ。
「すいません、では何と呼べばいいですか?」
「私の事は“美琴”(ミコト)と呼びなさい。関係は貴方がさっき幼馴染って言ったからそれで通します。同じ学校って言ってましたしね。」
「わかりました。では、私の事も慎(マコト)と呼んで下さい。」
「……なぜ?」
「幼馴染なんですから、名前で呼びあうのが普通ですよ。」
「そう、そうね、その通りだわ。」
「あと、お嬢様は喋り方をもう少し軽くしてください。それでは、皆話しかけづらいです。」
「わ、わかった!」
「よろしい。私も学校で話すときはお嬢様には敬語は使いませんから。」
「わかった。」
「そろそろ、学校ですね。」
初めての学校。
胸が高鳴る。