日野雄大はクラスで一番性格が悪い


心当たりはあった。

五個上なのに小五なら日野ちゃんは幼稚園児じゃんと言った俺に、何も言い返さず話をすり替えたり。

お兄ちゃんに会わせてと頼んだ俺に、それは無理と言いながらも理由を教えてくれなかったり。


……日野ちゃんは決して、〝お兄ちゃんは死んでる〟という言葉を、言おうとしなかった。


「現に、あの子には見えてるの、小五のまま成長の止まった……颯太の姿が。たまに颯太の部屋で話してるのよ……想像で作り上げた颯太と」


日野ちゃんは、颯太さんの死をまだ認めることができていないんだ。
まだ生きていると思い込んで……想像の颯太さんの姿を作り出してしまっているんだ。


「……本当のこと、言わないんですか?」


尋ねた俺に、日野ちゃんのお母さんは首を横に振って「言えない」と答えた。


「もし颯太はもう死んでるのよって教えたら……雪那まで死んじゃうんじゃないかって、怖くて……。だから、颯太の部屋も十年間あのままの状態で……」


日野ちゃんが、死ぬ?

俺は何も、返事ができなかった。
言葉が出て来なかった。


……だって、本当にその通りかもしれない。

本当に日野ちゃんは、事実を知れば、死んでしまう気がしたから。


それがすごく、怖くなった。

< 54 / 184 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop