全部大好きなんだ。
つまづいたその先に
*緋色 紫*
「――へ? 転校生?」
ごく普通の容姿を持った、どこから見ても平凡なポニーテールの私――緋色 紫(ヒイロ ユカリ)。
唯一の特徴と言えば、声が高いって事くらい。
周りの人達からは「アニメみたい」と言われて、結構コンプレックスになってしまっているけど。
「そうそう。季節外れだよね! この真夏に転校生だよ」
それで、今嬉しそうに話しているこのショートボブの美少女は私の親友――相田実咲(アイダ ミサキ)。
自信家で何でも出来てしまう私の尊敬する友人でもあったり。
「なんでこの時期にいきなり?」
「うーん、父親の転勤で一緒にって事らしいよ。もうずっとこっちにいるんだって」
「へえー」
大変だなぁ。なんて、他人事だけど。
正直言えば小学生、中学生の頃に何度か転校してきた私には転校生が珍しいとも思えない。
でもクラスメイト達はそれが楽しみらしく、みんな転校生の話をしている。
話を聞く限り、転校生は男子らしい。
女の子が良かったな……
というのも男子はみんな私の声をバカにしてくるから、転校生にまでそれが浸透してしまうのが嫌なんだ。
表では絶対に弱味なんて見せないけど。
「ねえ、転校生がイケメンだったらどうする?」
「ははは……ないよそれは。アニメじゃあるまいし」
「分かんないよ〜? 超絶イケメンだったら、告白しようかな♪」
「気が早いよ」
呆れて横目に見れば、てへへと笑う実咲。
いくら可愛いからって、そんな行動力は身につけても得しない。
彼氏なんていなくても、人生楽しければいいんだ。