あの日、君と見た青空を僕は忘れない

コンコン


「はーい」

部屋から、岡本の声が聞こえる。


ガラッ


「そろそろ式…」

岡本のウェディングドレス姿をみて、言いかけて、言葉を失った。



真っ白なドレスに身を包んだ彼女はすごく綺麗で。


化粧のおかげか、病人には見えない。


心の底から、俺にはもったいないと感じた。



「見て!黒田くん!このドレスにしてよかった〜」


回ってドレスを見せてくれる岡本。


花嫁のウェディングドレス姿を見て、泣くような男、理解できなかった俺が、今猛烈に泣きそうになっている。



「似合ってんじゃん」

涙を必死にこらえてそう言う。


「ふふん。黒田くんも、かっこいい!」


「あぁ」


岡本の隣にいたウェディングプランナーは、「あと5分で会場に向かいますね」と気を使って、病室を出た。



「…ありがとうね。黒田くん」

「別に俺は何も」

「こんなことしてくれて、何もって…。本当にありがとう」


「やりたいことしてるだけだから」

「黒田くんのこと、会ってすぐに好きになってたよ。でも、もうすぐ死んじゃう私が恋愛しちゃ辛いだけだって、思ってた」

「うん」

「でも…病気だって気持ちより、黒田くんを思う気持ちのほうがはるかに上だった」

「…」

泣きながらそう言う彼女になんて言っていいかわからなくて、ハンカチで優しく涙を拭うことしかできなかった。


「黒田くんは、私の病気に勝ってくれたよ?…黒田くんのことばっかり考えて、自分が病気だってこと忘れてたし…」

「もういいから」

俺はウェディングドレス姿の彼女をぎゅっと抱きしめた。



わかってるから。


何も言わないでいい。


感じてるから。


同じ気持ちだから。




愛しているから。


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