あの日、君と見た青空を僕は忘れない
「…幸ね、あまり時間が無いの」
「え?」
「半年前に、先生に余命1年だって言われてね…私も幸のお父さんもすごくびっくりして…」
え…
この人は何を言っているんだろうと思った。
「…すみません。全然意味がわからないです。だって、元気じゃないですか。俺よりずっと…」
「黒田くん、聞いて」
岡本のお母さんは、ゆっくり、すごく丁寧に、岡本の全てを話してくれた。
ガン宣告をされ高校にまともに行けなかったこと。
再発してしまったこと。
丁寧に、丁寧に。
「…親2人が、精神的に不安定になった時に、励ましてくれたのは幸なの。幸が一番辛いはずなのに、私たちが励まさなきゃ行けないのに。幸の方が『大丈夫』『きっと良くなるから』って」
岡本のお母さんは泣きながらそう話す。
「…ダメな親よねーほんと。学校に行くまでは、病気のことばっかり考えて、家族みんなダメになっちゃうんじゃないかって状況で。そんな時に、幸が黒田くんに出会ってね…」
「……」
「うちに帰ってくるたんびに黒田くんの話ばっかりで。黒田くんが、黒田くんがって。そのおかげで、ガンも一時期小さくなったのよ?」
「はぁ…」
「でも、やっぱり、手強いみたい」
知らなかった。
何にも。
岡本のことなんかこれっぽっちも。
何が好きだよ。
何が俺が一番岡本のことわかってるだよ。
何にもわかってないじゃないか。
岡本は、ずっと。
初めて会った時からずっと、病気と闘っていたんだ。
自分の命が減っていくのを感じながら、ずっと笑ってたんだ。
「…俺」
「だからね、黒田くんには本当に感謝してるのよ?本当にありがとうね」
そう頭をさげる岡本のお母さん。
やめてくれ。
俺は何も。
むしろ、岡本を傷つけることばかり言った。
『高3から積み上げようったって遅いんだよ。…そういうの大学とか就職とか卒業してからもっかいすれば?』
『みんなお前のこと嫌ってるぞ』
なんで…
なんで俺は…
ゆっくりなんて。
後からなんて。
そんなの岡本にとっては苦しい言葉なのに。
「…俺、全然知らなくて。岡本のこと傷つけました…たくさん…ごめんさない…」
「謝らないで?知らないんだもの。当たり前よ。それに、同情で優しくされたって、あの子は嬉しくないと思うの。正面から、1人の女の子としてぶつかってくれた黒田くんのこと、あの子すごく大好きよ?」
「岡本さん…ちょっといいですか?」
岡本のお母さんは看護師に呼ばれる。
「あ、ごめんね、黒田くん。今日は本当にありがとう」
そう言って奥の部屋へと入っていった。
俺は、少しの間、ぼーっと考えてから、病院を出た。