ボディーガードにモノ申す!
あれは何だったのか。
単なるちょっとした気まぐれとしか思いようがない。
散々私のことを貶しておいて、最後にアレは無いでしょうよ。
人の困った顔を見たいがためにやった行動に違いない。
真山武のやりそうなことだ。
私の気も知らないで、振り回すのはやめてほしい。
……とは言え、私も接客のプロですから。
仕事にプライベートは持ち込みたくない。
お店にいらっしゃったお客様に僅かな動揺や隙は見せてはいけないので、押し付けがましくない柔らかい笑顔での応対を心がけた。
「椿さんのカレって、なんの仕事してるんですかぁ?」
遅番で出勤してきた佳織ちゃんが、先ほど売り上げたスカートのストックを出しながら普通に尋ねてきた。
あまりにも普通だったから、すんなり答えてしまいそうな程だった。
直前になって気がついて、ブンブンと首を振る。
「いやいやいや。カレじゃないから」
「別に照れなくたっていいじゃないですかー」
「照れてるとかじゃなくて!」
「そんなにヤバい仕事なんですか?」
「全然ヤバくないよ。警備会社の社員ってだけで」
乗せられて答えてから、ハッと我に返って再び首を振った。
「警備会社に勤めてるのはホントだけど、付き合ってはいないからね!」
「えー。もったいなーい!なかなか出会いなんて無いんだし、これを逃したらチャンス掴めないですよ?」
なにが悲しくて年下の後輩に恋愛論を諭されなきゃいけないのか。
でも言ってることは一理がるから、ついついうなずいてしまった。