ボディーガードにモノ申す!
会計を済ませて私と佳織ちゃんは「アタシの居酒屋」を出た。
半ば強制的に退散する格好になったため、佳織ちゃんはやや不満げだった。
「もうっ、椿さんたらそんなに怒らなくても」
「だって隣であんな人が飲んでると思うと楽しめないって思ったんだもの」
「あぁいう出会いが運命かもしれないんですよ?それを逃しちゃダメですよ」
まさか5歳も年下の佳織ちゃんにそんなことを言われる日が来るとは思ってもみなかった。
彼女もフリーなので、どこかに落ちている偶然の出会いを探していたようだ。橋浦さんに対するアレは恋心とは違うのか?
「それに、あの2人わりとかっこよかったじゃないですか。話してみないとその人の性格とか分からないですし」
「佳織ちゃん…………オトナな発言だね……」
すっかり感心してしまったけれど、彼女の言った何気ない言葉に「ん?」と一瞬思いとどまる。
「かっこいい?あれが?あんなのが好みなの?」
「えー!ちゃんと顔見ました?今流行りの塩顔で、笑った感じとか素敵でしたよ」
「………………ダメだ、イライラしたことしか思い出せないっ」
「あはは、でも椿さんみたいな美人に対してオヤジって言ったのは確かに失礼ですけどね」
「佳織ちゃんだけよ、そんな風に私を上げてくれる子は!」
可愛い後輩をひとしきり抱きしめてやったあと、冷静になって腕時計を見て体勢を立て直した。
「明日も仕事だし……、帰ろっか」
「あ、私は明日休みです」
「マジか、いいなぁ」
心底羨ましいと思いながらも、もう一軒行こうと言えない真面目な自分が腹立たしい。
明日も仕事だと思うと無闇に飲み歩くのを控えてしまう。
昔はもう少しハッチャケてたはずなのに。