ボディーガードにモノ申す!


電車を降りてからは、駅から自宅アパートまでゆっくりとした歩調で向かった。
和代さんはその間、自分の話をしてくれた。


彼女は結婚しており、旦那様との間に2人の息子さんがいるということ。
彼らはすでに社会人と大学生になっていて、ほとんど手がかからないということ。
小さな頃から空手と柔道をしていたので、それを生かせる仕事に就けて充実しているということ。


反抗期を迎えた高校生の頃の長男を、投げ飛ばしたことがあるというエピソードで笑いを誘ってくれた。


「今の時代、女も強くなきゃね。椿ちゃんを襲った人は、きっと心が弱い人なのよ。自分に自信が持てなくて、真っ当にアピールするのが怖い人。要するに意気地無しよ。男なら正面からぶつかってくればいいのにねぇ」


ため息混じりに男性の脆い精神を憂う和代さんを見ていたら、彼女のようにサッパリハッキリと思ったことを口にしている方がなにかと得をするんじゃないかと思うようになってきた。


ポツリと本音を漏らしてしまった。


「私……、襲ってきた人は知り合いでも何でもない人なんじゃないかって思う時があるんです」

「あら、どうして?」

「単なる欲求不満な男の人が、フラッと襲ってきただけなのかなって。2回の無言電話は、単なる偶然じゃないかなぁって思ったりして。そうだったらいいのにって願望でもあるんですけどね」

「そうよねぇ、知り合いにそういう人がいるなんて思いたくもないもんねぇ」


和代さんはひとしきり私に同調してはくれたものの、「でもね」とすぐに付け加えた。


「念には念をって言葉がある通り、犯人が本当に知り合いだった場合のことを考えると怖いじゃない?予防策はとっておいて損は無いわよ」

「…………そうですね」


万が一。
本当に本当に万が一。
真山が言っていたみたいに、杉田さんや貝山くんや、それ以外に交流のある異性の誰かに狙われていたとしたら。


確かに危険であることに変わりはない。
自分の身は自分で守れるようになった方がいいのだ。


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