ボディーガードにモノ申す!
「……あの!和代さんに、お願いしてもいいですか?」
思い切って顔を上げると、彼女が隣で不思議そうな表情を浮かべた。
「なにかしら?」
「護身術教えてもらうの、今日でもいいですか?延長料金は払いますから、私のアパートで教えて下さい!」
意を決して和代さんに頼んでみると、彼女はあっさりと「分かったわ」と承諾してくれた。
「咄嗟に使える護身術、教えてあげる」
「頑張ります!」
今はボディーガードを雇っているからいいけれど、これから先また同じことが無いとは言い切れない。
その時には自分の力でどうにかしたい。
運動神経には自信はないが、必ずマスターしてみせると意気込んでいた。
30分後、片付けたばかりの私のアパートのリビングで、和代さんに手取り足取り護身術のレクチャーを受けた。
「じゃあもう一度やってみようか」
和代さんが襲う役目を担ってくれて、後ろからガバッと私に抱きついてくる。
体に回された腕を掴んで、彼女の足を踏み付けた。
そこで拘束されていた腕が緩んだら、右肘を勢いよく引いて相手のみぞおちに当てる。
相手が完全に怯んだのを確認したら、即座にその場から逃げ出すという寸法だ。
「動きはスムーズになってきたわね。相手の腕が体じゃなくて首に回された時は、思い切ってその腕を噛んじゃいなさい」
「か、噛むんですかっ」
和代さんのアドバイスをメモしながら、驚いて目を丸くしてしまった。
「いいのよ、相手は変態。情けは無用」
「な、なるほど」
「それから、足を踏んでも腕を噛んでもダメだったら、後頭部使って相手の顔面に頭突きしちゃって。鼻に当たれば儲けものよ、人間の急所だから」
「鼻!急所って股間じゃないんだ……」
「後ろから襲われた場合は股間を狙いにくいのよねぇ。そりゃ相手の股間に金槌でも打ってやりたいけどねぇ」
あははと高笑いしている彼女をよそに、私は1人で勝手にゾクッとしてしまった。
なんか、和代さんなら躊躇いなく笑顔でやりそう。なーんて。