ボディーガードにモノ申す!
「広瀬さんは知らないと思いますが、俺はあなたのことを以前から知ってました。覚えてますか、テンダータイムというお店のこと」
貝山くんに言われたことが、なんのことなのか一瞬分からなかったけれど。
少し考えたら思い出した。
「テンダータイムって、前に閉店したダイニングバーの名前?」
私がきちんと的を得た答えを口にしたからなのか、彼はとても満足げな表情を浮かべてコクンとうなずいた。
「はい。広瀬さんがよくお友達といらっしゃってたバーです。覚えてないと思いますけど、俺はそこで働いてました」
「ご、ごめんなさい……覚えてない……」
「いいんです、それは。想定内の答えです。俺はいつも、広瀬さんの笑顔に癒されてたんですよ。それでテンダータイムが閉店してあなたに会えなくなって、会いたくなったんです」
貝山くんは後退する私と距離を詰めるようにじりじりと近づいてきた。
一定の距離を保ちながら、彼が不気味な笑顔のままで語りかけてくる。
「広瀬さんのあとをつけてこの自宅のこと、それから職場のことを知りました。行きつけのカフェがあるって分かって、そこで働いてあなたと話せるようになりました」
「計画的ね」
「はい。立派にこうして会話をかわせるようになって、名前まで覚えてもらえて。幸せだったんですけど……」
「けど?」
「人間、やっぱり欲が出てくるものなんですね」
キラリと歯を見せて、貝山くんがニヤッと笑った。
それは爽やかさの欠片もない、少しゾクッとするものがあった。