ボディーガードにモノ申す!
貝山くんがグイッと距離を一気に縮めてきた。
すぐ目の前まで迫った彼の唇が動き、
「今度は触りたくなったんです」
と言った。
ヤバい、襲われる!
瞬時に察して、持っていたショルダーバッグのファスナーを開けようとした。
でも、指が震えてもつれてしまい、ファスナーを開けることが出来ない。
せっかく買った防犯ブザーを鳴らすことも出来ない。
「あなたを後ろから抱きしめたあの日、シンデレラみたいに落としていった靴……。俺の家にありますよ。俺の宝物です」
うっとりと恍惚の表情で話す貝山くんは、完全に変態の顔をしていた。
シンデレラ、って誰のことを言ってるの?
バカじゃないの!
「もうやめてよ!私はそういうの苦手なの!もう関わらないで!帰ってよ!」
二度と彼のいるカフェになんか行くものか、もう話なんかしたくない。
そういう思いを込めて言い放つと、貝山くんは一変して悲しげな目をした。
「どうしてそんなこと……。俺の知ってる広瀬さんはそんなひどい言葉を言う人じゃない」
「あのねぇ、シンデレラだのなんだのって夢見るのは勝手だけど、押しつけないでよ。私はそんなキラキラしたもんじゃなくて、服が散乱した汚い部屋に住む女なの!干物女なのよ!」
「…………………………は?誰が?」
「私が」
「汚い部屋に住む女?」
「片付けたけどね。数日前まで汚部屋に住んでたの」
「…………………………」
自慢することでもないが、幻滅してもらいたくて胸を張って言ってやった。
彼の表情が曇っていくのが手に取るように分かる。