ボディーガードにモノ申す!


貝山くんがグイッと距離を一気に縮めてきた。
すぐ目の前まで迫った彼の唇が動き、


「今度は触りたくなったんです」


と言った。


ヤバい、襲われる!
瞬時に察して、持っていたショルダーバッグのファスナーを開けようとした。


でも、指が震えてもつれてしまい、ファスナーを開けることが出来ない。
せっかく買った防犯ブザーを鳴らすことも出来ない。


「あなたを後ろから抱きしめたあの日、シンデレラみたいに落としていった靴……。俺の家にありますよ。俺の宝物です」


うっとりと恍惚の表情で話す貝山くんは、完全に変態の顔をしていた。
シンデレラ、って誰のことを言ってるの?
バカじゃないの!


「もうやめてよ!私はそういうの苦手なの!もう関わらないで!帰ってよ!」


二度と彼のいるカフェになんか行くものか、もう話なんかしたくない。
そういう思いを込めて言い放つと、貝山くんは一変して悲しげな目をした。


「どうしてそんなこと……。俺の知ってる広瀬さんはそんなひどい言葉を言う人じゃない」

「あのねぇ、シンデレラだのなんだのって夢見るのは勝手だけど、押しつけないでよ。私はそんなキラキラしたもんじゃなくて、服が散乱した汚い部屋に住む女なの!干物女なのよ!」

「…………………………は?誰が?」

「私が」

「汚い部屋に住む女?」

「片付けたけどね。数日前まで汚部屋に住んでたの」

「…………………………」


自慢することでもないが、幻滅してもらいたくて胸を張って言ってやった。
彼の表情が曇っていくのが手に取るように分かる。


< 136 / 153 >

この作品をシェア

pagetop