ボディーガードにモノ申す!
杉田さんとは駅前の本屋の前で別れ、私は電車へ乗るためにホームに降り立つ。
今まで彼と一緒に歩いても途中で会話が途切れることが多かったけれど、今日は何故だかそういうこともなかったな。
そこそこ混雑している電車に揺られること30分。
今度は行きつけのカフェで、ひと時のコーヒータイムだ。
会計を済ませてドリンクを待つスペースで立っていたら、カウンターの向こうから明るい声が聞こえた。
「おはようございます」
パッと顔を上げたら、イケメン店員の貝山くんが笑顔でドリンクを作っていた。
おぉ、私ったらこの子の存在を忘れていた!
いるじゃない、目の保養が!心の潤いが!
そう思ったら、ついつい挨拶よりも先に
「貝山くん!」
と口走ってしまった。
言ってから、事の重大さを理解する。
しまった、名前をチェックしたってバレた。
とんだアラサー女に目をつけられたとでも怯えてしまったらどうしよう。
朧気な笑みを顔に貼りつかせていたら、貝山くんは爽やかな笑顔を私に向けてきた。
「俺の名前、知っててくれてたんですね。嬉しいです!もし良かったら聞いてもいいですか、名前」
あらまぁ、まさかの神対応。
まだ若いのに素晴らしい。
感動しながら「広瀬です」と名前を伝えた。
「広瀬さん、ですね。………………では、こちらドリンクです。お待たせ致しました」
ブラックコーヒーが入った紙コップ。
彼がそれをカウンターに置いてくれたので、私は受け取る。
すると、その紙コップにさりげないメッセージ。
『ヒロセ様、今日もお仕事頑張ってください』
横には、ニコちゃんマーク。あらら、可愛い。
私は「ありがとう」と彼に伝えて、年下男子の甘い笑顔に心を解されながら席についた。
こうやって女は年下に落ちるのかしらね。
これでも接客業をやってるので、あれはみんなに向ける営業スマイルだっていうのが分かってるからまだいいんだけど。
それでも嬉しいものは嬉しい。
今日も仕事、頑張らなきゃ。そう思えた。