ボディーガードにモノ申す!
彼がアゴヒゲをさする時は私をからかっていじる時だ。
服と向き合う時の真剣な眼差しはどこへやら。いたずら好きの小学生みたいな目をする。
「お前が外では仮面かぶってる、ってな。家じゃ野生児みたいな生活してるんだろ?」
野生児だと?
佳織ちゃんの解釈を問いただしたい。
「清く正しく生きておりますので、野生児なんて言われる覚えはありませんが」
「なんとなく想像はつくけどな。いっつも完璧にして仕事に来るけど、その分の反動で家の中とかめちゃくちゃなんじゃないのか」
「何を申しますかッ!」
図星をさされたため、声を荒らげてしまった。
橋浦さんはお腹を抱えて笑う。
くそ、彼の思惑にハマってしまった。
「ムキになるなよ、オヤジ女子」
「そ、それも佳織ちゃんに聞いたんですね!?」
「早く彼氏作った方がいいと思います〜、って元木が言ってたぞ。ありゃ先輩としては尊敬されてるけど女としては下に見られてるな」
「……………………どうせオヤジ女子ですよ、干物女ですよ」
チッとこれみよがしに舌打ちしてやったのに、橋浦さんに華麗にスルーされた。その代わりに私のすぐそばまで近づいてきて、「いいか」と人差し指を突きつけられた。
「部屋は人を映す鏡と思え。服を畳み、ハンガーに掛け、整理するだけで女としての価値が一気に上がるぞ」
「………………なぜ部屋が汚いと決めつけるんですか」
「なんとなく、だ」
答え方は曖昧なのに、その目には自信がみなぎっている。
透視能力でもあるのか、この人には。
だから困るんだ、こういう人が上司だと。
プライバシーの侵害に当たるようなことまで口出ししてくるから。
しかも的を得ているから言い返せない。
橋浦さんこそ先輩としては尊敬してるけど、異性としてはありえないな。断じて。
作り笑いを返しつつ、そんなことを考えてしまった。