ボディーガードにモノ申す!
3回ほどノックをした後、若い男性が部屋に入ってきた。
手にはトレイに乗せた冷茶。グラスがふたつ。
ひとつをツネさんの前に、もうひとつは私に出してくれた。
「ありがとうございます」
会釈すると、三上くんは優しく微笑んでくれた。
一瞬、お互いに見つめ合う。
………………ん?どこかで会ったことがあるような?
彼も同じことを思ったのか、首をかしげていた。
「ちょうどよかった、三上くん。メモとってくれないか?最近俺は老眼がすすんでちっとも目が見えやしない」
ツネさんが隣のイスを引いて三上くんを手招きする。彼は「分かりました」と胸元から自分のボールペンを取り出して、ツネさんの代わりに調書を取ってくれることになった。
「さて、広瀬さん。まず第一に聞きたいことは、襲った奴の顔は見たのかということだ。どうかな?」
ツネさんが私の目をまっすぐに見据えながら尋ねてきた。
「残念ながら、見てません」
「具体的にどんな風に襲われたのか、詳しく話せる?」
「あの時ちょっとパニックになっていて、記憶が曖昧なんですけど……。とりあえず後ろから抱きつかれたのだけは覚えてます」
「抱きつかれた。そりゃビックリしただろう。どんな感じに抱きつかれたの?」
私は両手をいったん広げて、それをギュッとクロスさせながら自分の身体に巻き付けた。
「こう、ガバッと。かなり強い力でした。口も塞がれた気がします」
「広瀬さんは声は出したの?」
「いえ、怖くて出せなくて……」
「なるほど。それで?」
「動かせたのが頭だけだったから、何度か左右に振り回したんです。そうしたら、右の耳が痛くなって……。たぶん、ピアスが相手の何かに引っかかったみたいで、さっき気がついたんですけど右のピアスが無くなってました」
「確かに耳たぶに出血のあとがあるね」
ツネさんと三上くんが私の右の耳たぶを凝視する。
もう血は止まったけれど、まだ少し痛い。