ボディーガードにモノ申す!
その後、ツネさんの引導で聞き取りを終えた私はタクシーで帰ることにした。さすがに1人で夜道を歩く気にはなれなかったから。
三上くんがタクシーを呼んでくれて、警察署の入口まで送ってくれた。
「あ、タクシーもう来てますね」
警察署の入口のそばにタクシーがハザードランプをつけて停車しているのを見つけて、私は三上くんに頭を下げた。
「ありがとうございました。ここまでで大丈夫です。では」
「お気をつけて。何かありましたらいつでもご連絡下さい」
いや、何かあってからでは遅いでしょうが。
と言いそうになり、口をつぐむ。
事務的な口調の三上くんに一瞥し、署から出ようとしたところで後ろから彼に呼び止められた。
「あ!広瀬さん」
言い忘れたことでもあったのかと振り向くと、三上くんが少し慌てた様子で駆け寄ってきた。
「君のこと、見たことあるなぁと思っていたんですが、どこで会ったのかやっと思い出しました!」
「え?」
「覚えてない?少し前に、『アタシの居酒屋』というお店で隣のテーブルになったんだけど。オヤジ女子だのなんだのって話してたよね、確か」
『アタシの居酒屋』『隣のテーブル』『オヤジ女子』というワードで、私も思い出した。
そうだ、あの感じの悪い塩顔男と一緒に飲んでたヤツだ!ものすごく困り顔でこちらを見ていたヤツだ!
あ、と口を開けていたら、パッと明るく三上くんが笑った。
事務的な口調と表情はもう無い。
「あの時はタケルが失礼なこと言っちゃってごめんね。僕は三上小太郎。いやぁ、こんな偶然があるとは!」
「ど、どうも……。広瀬椿です」
すっかり彼のマイペースな雰囲気に飲まれそうになっている私に、三上くんは少し声をひそめて耳打ちしてきた。
「あのさ、君、警備つけてほしいって言ってたじゃない?」
「は、はいっ」
「あれね、いいアイデアがあるんだ」
「アイデア?」
彼はキョトンとする私へ向かって、にっこりと優しそうな笑みを浮かべたのだった。