ボディーガードにモノ申す!


翌日。
漫画喫茶に行く予定だったはずの休日。
だけど私にはそんな悠長なことをやっている暇は無い。
昨日三上くんに言われた通り、自己防衛に努めなければいけない。


そのための、一歩。


お昼過ぎにアパートのベランダから外を見下ろす。
不審人物、特になし。


いつ襲われても素早く逃げられるように、仕事に行くよりもラフな服装に身を包む。
チェックのシャツにボーイフレンドデニム。足元はもちろんスニーカーだ。
髪の毛は下ろして、化粧はベースメイクのみ。


ガチャリとドアを開けて、通路を伺う。
不審人物、特になし。


これを出かける前に毎回やらなきゃならないと思うと気が重い。だけど昨夜のような怖い思いは絶対にしたくない。
自己防衛、自己防衛。


ショルダーバッグを肩にかけて、部屋の鍵を締めるとアパートを後にした。


仕事に行く電車とは違う路線のものに乗り、特急で10分程度の駅を目指す。
そんなに遠くない場所に、私の目的地はある。
昼間の乗客の少ない電車を降り、あまり来たことのない駅の構内をキョロキョロした。


昨日、帰り際に三上くんがジャケットの内ポケットから手帳を取り出して、ペンでなにやら走り書きをした。
それを私に渡してきたのだ。


「本当は、こういうの斡旋するのは禁じられてるんだ。でもこの間、僕の友達が君に失礼なこと言ったでしょ?それのお詫び。そのメモに書かれてる警備会社、個人対象のボディーガードもやってるから話だけでも聞いてみて。僕の名前出せば料金もオマケしてくれるはずだから」


私に小さな声で早口でそう言い、ニコッと笑った。


「大丈夫。変な会社じゃないから安心して。小さいけど、仕事はちゃんとする会社だよ。警察官のお墨付き」


タクシーも待っていることだし、とりあえずその場では「ありがとうございます」とお礼を言って立ち去ったのだけれど……。



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