ボディーガードにモノ申す!


なにはともあれ、今日契約して帰れば明日からの仕事の帰り道で怯える必要もない。
万が一何かあっても、ボディーガードの人が私を守ってくれるのだから。恐怖心に苛まれていたけれど、もう大丈夫と思えた。


トントントン、と階段を降りてくる音が聞こえた。それはどんどん下へと近づいてくる。


来た来た、私のボディーガード。
どんな人だろう。
ドラマのような……ってやつは、もう期待しないことにした。
明るい感じの素敵なおじ様ってのも有りだな。
それか、行きつけのカフェの貝山くんみたいな爽やかな人も有りだな〜。


お花畑が頭の上に広がりつつある私がくるりと振り返る。


ちょうどよく1人の男性が姿を現した。
その人と目が合う。


一瞬、見間違いかと思って体を向き直し、ゴシゴシと目をこすった。
もう一度振り返る。これぞ二度見。
さっきの人がもうそばまで来ていた。


背の高い細身のその人は、スーツの着こなしだけは超一流だ。ただし、ノーネクタイ。
最近よくテレビや雑誌で取り上げられるような、いわゆる塩顔。
少し厚ぼったい瞼と、切れ長の目。
眼光だけはやたらと鋭い。
無造作な髪の毛が色々な方向に伸びていた。


イスから立ち上がった私は、ただただ目を丸くして彼を見上げるしか出来なかった。


「………………あれ、君は……」


色素の薄い瞳を私に向けて、彼は何かを思い出そうとしているらしい。


思い出すな!余計なことを思い出すな!
ひと足先に私は彼のことを思い出していたのだ。
━━━━━私をオヤジ呼ばわりした、こいつのことを。


忘れたとは言わせないぞ。
『アタシの居酒屋』で三上くんと一緒にいた、失礼な塩顔男じゃないか!


まさかここの社員だったとは。
その繋がりで三上くんと仲がいいのだろうか?

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