ボディーガードにモノ申す!


「お、タケル。来てたのか」


西島社長が再登場。顔はニコニコ優しい笑顔だ。


「今ちょうど契約書類にサインしてもらうところだ。……ほら、言った通り綺麗な女性だろう?」


社長はイスに腰かけながら契約書類らしきものをテーブルに広げた。その横に「タケル」という男も座り、スラリとした長い足を組んで私のことをいまだに見ている。
そしてヤツの口が開いた。


「えぇ、社長の言う通りですね。いいのかな、担当するの俺なんかで」

「誰でもいいんだと。ほれ、名刺渡しなさい」


促された男は、ジャケットから名刺を出して私に両手で差し出してきた。


「真山武です。どうぞよろしくお願い致します」

「広瀬椿です……。よろしくお願いします」


名刺を受け取りながら私も名前を告げた。
すると、彼はとても優しく穏やかな笑顔を浮かべた。


記憶違いかと錯覚するほどに、真山武はあの時の「タケル」とは別人に思えた。
人をバカにしたような物言いをしていたあの時は、機嫌が悪かっただけなのだろうか。むしろ本当に別人とか?
だって今目の前で微笑む彼は、非常に愛想が良くて優しげだ。


「この用紙に契約規約が書いてあるので、よく読んでからサインをお願いします。あとこっちは広瀬さんとタケルのサインも必要だから」


2枚の契約書。
1枚めは細々と規約が書いてある。
甲は乙が○○した場合、乙の○○を○○してどうのこうの、みたいな堅苦しいやつ。

2枚目は実に単純だった。
「どんな状況でも、依頼者は警護者に全てを委ねる。警護者は依頼者を全力で警護する。」という簡素な文章のみ。


1枚めは私だけがサインし、2枚目は依頼者の欄に私が、警護者の欄に真山武がサインした。
ヤツの字は思いのほか綺麗だった。
ついでに左利きだった。

< 40 / 153 >

この作品をシェア

pagetop