ボディーガードにモノ申す!


いつも通りに、と言われたので遠慮なくそうさせてもらった。


ファッションビルが立ち並ぶ通りを自分のペースで歩き、駅の構内にあるスーパーに寄ってお惣菜を買い、定期を使って改札を抜ける。
真山もあらかじめプリペイド式の電子マネーを準備していたらしく、それで難なく改札を通って私についてきた。


後ろをついてくることに違和感があったのは最初だけだった。
5分ほどで彼の存在は私の中で驚くほどに定着し、あまり気にならなくなった。
存在を消すのがうまいのか、雑踏に馴染むのがうまいのか。
この仕事に慣れているんだろうなぁと感じた。


ホームに降り立ったはいいものの、来るまでにまだ時間がある。
何か飲み物でも買おうとそばにあった自販機で冷たいお茶を買った。
少し考えて、もう一本追加で購入した私は、後ろにいる真山にそれを差し出した。


「これ、どうぞ」


どうも、とすんなり受け取るものだと思っていたけれど、真山は首を振った。


「申し訳ありませんが、受け取れません」

「お茶、嫌いですか?」

「いいえ、そうではなく……。飲食している時に何かあったら、広瀬さんをお守り出来ませんので。警護の仕事の間は基本的に飲まず食わずでやってますから、お気遣いなく」


柔らかな物腰で、角が立たないようにやんわり断る真山のその話し方に、ちょっと驚いた。
第一印象も第二印象も最悪だっただけに、仕事の取り組み方は超がつく真面目っぷりで目も耳も疑ってしまった。


「それじゃ、暑い夏とか大変ですね……」

「仕事ですから」


どう話しかけても、真山は仕事モード。
穏やかで優しい微笑みを常に絶やさない。
昼間の本性を知ってるだけに、居心地が悪いような気さえした。


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