ボディーガードにモノ申す!
しばらくホームで待っているうちに、どんどん後ろに電車を待つ人たちが列をなしていく。
帰宅ラッシュの時間帯だから仕方がない。
日によって違うけれど、早番の帰りはけっこう混み合う。
これが少々のストレスだったりする。
電車がまもなく到着するアナウンスが流れ、緩やかな風と共にゆっくりと目的の電車が停まった。
プシューッという音がして、ドアが開く。
外から見ても、すでに車内は混雑している。
数人が降りたのを確認し、私は周りの人たちの流れに乗ってどうにか電車に乗り込んだ。
バッグは両手に抱えて、吊革なんか空いているのはどこにも無いのでぎゅうぎゅう詰めの中で周りにうまい具合に体重を預けながら揺られる。
これもいつものことなので、バランス感覚を保つのは楽勝である。
ふと真山の姿を探したら、さっきまで後ろにいたはずの彼が隣にいた。
いつの間に!
ヤツは満員電車の中でも涼しい顔をしており、なんのストレスも感じてなさそうだ。
こういう時、身長が高い人が羨ましくなる。
息をするのが苦しくなさそうだからだ。
私なんて上を向いて呼吸することも多々ある。
各駅停車なので、動いては停まり、動いては停まり、を繰り返す。
大きな駅で停まった時、車内の流れが変わった。
降りる人と乗る人の入れ替わりが激しく、人数も多い。
気を抜くと電車から降ろされていることもあるので、適当に掴まるところを探していたら、真山が左腕を私の目の前に出してきた。
ポカンとその腕を見つめていたら、
「どうぞ、掴まって下さい」
と言われた。
何を言い出すのだ、この男!
「えっ!い、いえ、大丈夫で━━━━」
断ろうとした私の言葉は最後まで続かなかった。
気がついたら素早く真山に引っ張られ、開いていない方のドアへ勢いよく背中を押し付けられていた。
彼は私の顔のすぐ横に腕を突っ立てて、満員電車の窮屈さを少しでも和らげようとガードしてくれているらしい。
ドンはされてないけど、いわゆる壁ドン状態。
顔の距離も近く、身体もわりと密着している。
この体勢を男の人と本当にやることになるとは、今まで生きてきて夢にも思わなかったことだ。
ドックン!と、思いがけず心臓がけたたましく鳴ったので、顔を背けることでどうにか誤魔化した。