ボディーガードにモノ申す!


いやいや、今の「ドックン!」ってなによ?
どこから出てきたの、その音。
あまりにもずっと聞いてなかったから、なんの音か判別できなかったわ。
ということで、気のせい、気のせいっと。


普段ならありえないシチュエーションだから、うっかり「ドックン!」って鳴っちゃったのよね。
うん、分かる分かる〜。
だってほら、私って干物女だし。そういうの遠ざかってたから。


…………って何を自分自身に言い訳してるんだ!
とりあえず、目の前にいるこの塩顔男にお礼を言っておこうか。


「あの、すみません。ありがとうございます。私なんかのために。体、キツくないですか?」

「仕事ですから。体も心配は無用です。鍛えてますので」


乗車率の高いこの電車でそんな優しげな笑顔を見せたって、痩せ我慢してるように見えるんだぞ真山武!
私はボソリとそうですか、と返した。
しかしながら「鍛えてますので」というワードが引っかかり、こっそり腕とか胸をチラリとチェックしたのは内緒である。


キツキツの満員電車で苦しい思いをしながら帰るはずが、彼の腕の中でわりと悠々と過ごしてしまった。
こんなに快適に乗れる満員電車など、いまだかつてあっただろうか?いや、無い。


30分ほど電車に揺られ、徐々に乗客も減り始め、目的の駅に着いた頃にはだいぶ混雑も緩くなっていた。


見慣れた駅で降りて、軽快に階段をのぼって改札を通り抜ける。
私の後ろには、真山がついてきている。


普段あんなに失礼で横着な態度なのに、どうしてこうも仕事モードの真山は紳士的なのか。
ギャップに苦しみながら夜道を歩く。


そうしているうちに、無意識に通常の帰宅コースを歩いていることに気がついた。


このままでは、この間見知らぬ男に襲われた路地を通らなければならなくなる。
そのことがすっかり頭から抜けていたので、途中でピタッと足を止めた。


< 55 / 153 >

この作品をシェア

pagetop