ボディーガードにモノ申す!


足が、動かない。
あの時のことが思い出されて、足が竦む。


トラウマなんていう大げさなものではないにしろ、やっぱりあの出来事は私にとってはかなりの恐怖だったんだ。
誰かに襲われるなんて、初めてのことだったから。


歩くのをやめてじっと前方を見据えている私に、後ろから真山が声をかけてきた。


「どうかしましたか?」

「あ…………いえ」


そうだ、この人がいるから大丈夫じゃない。
そう思ったけど━━━━━。


「すみませんが、別の道を通って帰ってもいいですか?」


私はあの路地を通るのを拒んだ。


「それは構いませんが……」


若干腑に落ちない表情をちらりとのぞかせたものの、真山は深く聞いてくることは無かった。
彼は宣言通り、私の半歩後ろをただついてくるだけ。


世間話とか当たり障りの無い会話とか、そういうのも一切無く。
裏道は通らずに遠回りして、無事にアパートまでたどり着いた。


「ここまでで大丈夫です」


アパートの階段下で真山に告げると、彼はゆっくり首を横に振った。


「いえ、まだです。部屋までお送りします。あなたが部屋に入ったのを見届けたら帰ります」

「それは……決まりなの?」

「そうではありませんが、念のためです」


この男は私の部屋番号まで頭に入っているのだろう。
2階に住んでいることを知っているからそう言うのだ。


仕方なく私は階段をのぼり、部屋の前まで行くと鍵を取り出してドアを開けた。
あまり大きく開くと散らかった玄関を見られてしまうので、少しだけ。


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