ボディーガードにモノ申す!
「なんで逃げようとしてるんだよ」
真山がお得意の底意地の悪そうな笑みを私に向けて、上から見下ろしてくる。
掴まれた腕を無理やり引っぺがして、とりあえずこの場を取り繕うために適当な言い訳をする。
「えーっ、偶然!すごい偶然!ビックリ!こんなところで会うなんて信じられなーい!休みの日まで真山さんに会いたくなかったのに〜。…………あと、逃げようとしてるんじゃなくて、帰ろうとしただけなんですけどね」
「椿ちゃん、こんにちは〜。ほんと偶然だね!あれからどう?身の周りに不審者とか感じたりしてない?」
ちゃっかり「椿ちゃん」とか呼んじゃってる三上くんが、砕けた口調で尋ねてくる。
私服を着ていると、彼が警察官であるなんで誰も気づかなそうだ。
「大丈夫です。おかげさまでお隣にいらっしゃる方に警護してもらってるので」
「え!?タケルが担当になったの!?」
「あははは、ええ、そうですが何か?」
驚いている三上くんを、知らぬうちに凄みを効かせて睨んでいたらしい。
ハッと我に返って笑顔を作る。
ほんの少し怯えた表情をしたものの、三上くんは気を取り直したのか元気に私の背中を叩いてきた。
「でも元気そうで安心した!椿ちゃん、あの日本当に落ち込んでたもんね。目なんか潤んじゃって、今にも泣きそうだったから心配だったんだよ」
「そんなことないですっ」
おい、コタロー!
真山の前で余計なことを言うんじゃない!
まるで私が弱い女みたいじゃないか!
それはこいつの前では禁句なんだから!
焦って否定する私の顔をまじまじと眺めつつ、真山は「ふぅん」と首をかしげる。
「そんな顔、俺は一度も見たことないけどな」
「そうなの?肩なんか小刻みに震えちゃってたし、もう見てられなかったよ」
「へぇ。俺にはどこからどう見てもオヤジにしか見えないけど」
「タケル、そんなわけないでしょ〜!むしろ言葉を選べよ〜。椿ちゃん怒っちゃうだろ?」
苦笑している三上くんをよそに、私はとっくに怒っているということを示すために真山の足を踏んづけてやった。
「イテッ」という短い声を出した後、ヤツは私を再び見下ろす。
「ほら見ろ。この女、警護なんて必要ないぐらい気が強いじゃないか」