ボディーガードにモノ申す!


護身術を教えてもらうという話だったはずなのに、私はローテーブルの周りをどうにか即席でスペースを空けて真山を座らせ、丁重にもてなすことになってしまった。


キッチンでコーヒーを淹れでヤツに出すと、カップに汚れがないか確認してから口をつけている。
失礼な奴め!


私が用意したシュークリームとロールケーキをペロリと食べた真山が、ぐるりと部屋を見渡してテーブルに肘をつき、なんかさ、と話し出す。


「色気が無いんだよな。欠片もないよな」

「ほっといてくださいよ。散らかってる方が落ち着くようになってきちゃったんです」

「なんでそうなったわけ?外面だけは綺麗にしてるくせに」

「だって誰かを家に入れる機会もなかったし……」

「君の見た目からは想像出来ないな、この部屋の汚さは」


ちょっと褒められてるような気にもなったけど、勘違いのような気もするのでその考えは打ち消しておいた。
すっかり寛いでいる真山に、忘れていそうなので念のため声をかける。


「あの〜、護身術はいつ教えてくれるんですか?」

「床にスペースが無いと教えられないよ。4日後、ここを綺麗にしたら教えてやる」

「えー!そんなぁ!話が違います!」


本気でこの男は再びこの部屋に来る気でいることを察知し、首を振ってどれだけ嫌なのかをアピールしたけれど通用しない。
むしろヤツは喜んでいるように見えて恐ろしくなる。


「本当に困ります……ほっといてください……」


祈るように手を組んだら、真山の手が伸びてきて額をデコピンされた。


「痛っっ!!」

「ふむ、リアクションも悪くない」

「なんのテストですか!」

「君、意外とけっこう面白いね」

「はぁ?」


呆然として聞き返すけれど、真山はそれをスルーしてコーヒーを飲み干した。


< 76 / 153 >

この作品をシェア

pagetop