ボディーガードにモノ申す!
護身術を教えてもらうという話だったはずなのに、私はローテーブルの周りをどうにか即席でスペースを空けて真山を座らせ、丁重にもてなすことになってしまった。
キッチンでコーヒーを淹れでヤツに出すと、カップに汚れがないか確認してから口をつけている。
失礼な奴め!
私が用意したシュークリームとロールケーキをペロリと食べた真山が、ぐるりと部屋を見渡してテーブルに肘をつき、なんかさ、と話し出す。
「色気が無いんだよな。欠片もないよな」
「ほっといてくださいよ。散らかってる方が落ち着くようになってきちゃったんです」
「なんでそうなったわけ?外面だけは綺麗にしてるくせに」
「だって誰かを家に入れる機会もなかったし……」
「君の見た目からは想像出来ないな、この部屋の汚さは」
ちょっと褒められてるような気にもなったけど、勘違いのような気もするのでその考えは打ち消しておいた。
すっかり寛いでいる真山に、忘れていそうなので念のため声をかける。
「あの〜、護身術はいつ教えてくれるんですか?」
「床にスペースが無いと教えられないよ。4日後、ここを綺麗にしたら教えてやる」
「えー!そんなぁ!話が違います!」
本気でこの男は再びこの部屋に来る気でいることを察知し、首を振ってどれだけ嫌なのかをアピールしたけれど通用しない。
むしろヤツは喜んでいるように見えて恐ろしくなる。
「本当に困ります……ほっといてください……」
祈るように手を組んだら、真山の手が伸びてきて額をデコピンされた。
「痛っっ!!」
「ふむ、リアクションも悪くない」
「なんのテストですか!」
「君、意外とけっこう面白いね」
「はぁ?」
呆然として聞き返すけれど、真山はそれをスルーしてコーヒーを飲み干した。