ボディーガードにモノ申す!
大谷ドミソの話をしたからか無性に彼の声を聴きたくなり、通勤電車の間にスマホにイヤホンをつないで彼の曲をかけた。
耳に穏やかな歌声が流れてきて、心がほんわかと癒される。
いつものカフェでコーヒーを飲みながら音楽を聴いていると、不意にひょいっと誰かに顔をのぞき込まれてのけ反った。
「あ!驚かせて申し訳ありません!」
そう言って申し訳なさそうに目を伏せたのは、貝山くんだった。
今日はドリンク担当ではないのか、店内のテーブルを拭いたり椅子を整頓したり備品を補充したり、雑用に勤しんでいた。
「貝山くん、いつも爽やかね〜」
いつ見てもキラキラ眩しい若々しい笑顔なので、イヤホンを外しながらついつい本音を漏らす20代後半女。
「広瀬さんの方こそ、いつ見ても素敵です。帰りにお見かけした時も、歩き方が綺麗ですよね。よく言われませんか?」
「ほ、褒めても何も出ないよ」
「見返りなんて期待してないですよ」
この間からどうしたのかしら、貝山くんは。
これだけ褒められると、オバチャン勘違いしちゃうからやめてよね。
それに、帰りっていつのことなのか。
帰りはカフェには寄らないから、たまたま駅のあたりで見かけたのかな?
そのことを聞こうとしたら、お客さんが増えてきてレジが混雑し始めたので
「すみません、もう行きますね」
と言い残して行ってしまった。
私は取り外したイヤホンから微かに流れてくる大谷ドミソの歌声を聴きながら、彼の背中を見送った。