ボディーガードにモノ申す!


「広瀬さん、お待ちしてました」


私が仕事を終えてお店を出ると、定番になりつつある待機場所の、隣のビルの壁ぎわに真山は立っていた。
スラリとした体型にスーツはズルいくらいに似合っていて、世間では好き嫌いが分かれるであろう塩顔も、私にはもはやなかなかいいんじゃないかと思わせるほどだ。


これはけっこう重症なんじゃないかと思ってきた。
私、かなりこいつにときめいてるじゃん。
どうするのよ。


仕事中の事務的な、でもしっかりと爽やかな営業スマイルを向けてくるあたり、一線を引かれているようで心苦しい。


「広瀬さん?」


返事もしないし歩き出すわけでもない私を、真山は怪訝そうな顔で探ってくる。
慌てて笑顔を取り繕った。


「ボーッとしちゃってた。ごめんなさい」


とりあえず電車に乗るために駅まで向かうことにして、重い足をなんとか踏み出した。


家に着いたら警護は終了し、真山は帰ってしまう。
ほんの少しでもいいからなるべく一緒に歩きたくて、無駄に寄り道をした。
なんだか恋したての中学生みたい、と思いながら。


夕飯を買うからとデパ地下に行ってみたり、ここのコーヒーが美味しいからと朝に立ち寄るカフェでコーヒーの粉を買ってみたり、ちょっと買い物したいからと薬局に寄ってみたり。


真山は嫌な顔ひとつせずに、黙々とついてきた。

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