たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
視線の先、そこにいた人物に思わず目を見張った。
だけど、それはどうやら相手も同じだったみたいで、栞も俺を見て固まっていた。
……艶のある黒髪が、迷い込んできた風に儚く揺れる。
靡いた黒は酷く柔らかに彼女の白い肌を撫で、それに一瞬時間が止まったような感覚に襲われた俺は、思わずゴクリと喉を鳴らした。
「……っ、」
(……どうして。どうして、こんな時間にここに、)
まるで、動揺を誤魔化すように。
視線を下に落とした俺は、栞にバレないよう小さく息を吐き出した。
たった今まで自分が考えていたことを、悟られないように。
俺の中にある、こんな真っ黒な感情が彼女に伝わらないように。
─── いつも通り。大丈夫。俺なら、いつも通りでいられるはずだから、
「(……先輩?)」
「……っ、」
「(何か、あったんですか?)」