たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
「…………栞?」
先輩の、艶のある声が私の名前を奏でる。
それに一瞬心臓が高鳴ったけれど、いつもより掠れたその声と私を見る先輩の表情に、次の瞬間には胸が不安で押しつぶされそうになった。
……だって、だって。
先輩の、こんな弱った表情(かお)を見るのは初めてで。
こんな風に、傷付いた表情を私に向けたことなんか、今まで一度もなかったから。
「(……先輩?何か、あったんですか?)」
固く、握り締められた拳。
気が付けば私は、温度を無くした先輩の手を取っていた。
そんな私の行動に驚いたのか、先輩の手から力が抜ける。
それに一瞬視線を落とした後、再び先輩を見上げれば「何もないよ」と力なく笑う樹生先輩。
そんな先輩を前に、どうすればいいのか。
どう見たって“何もない”はずがない先輩を前に、なんと声を掛けたらいいのか迷っていた私に───
「……とりあえず、外、出ようか」
先輩はそう言うと、触れ合っていた手を掴んで優しく引いた。