たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
 


「あと……受験生なんだから、身体に気をつけなさい」


「……っ、」



それだけ言うと、黒皮の椅子を廻して背を向けてしまった父がどんな表情をしているのか。


父の背中ばかりを見ていた今までは、全く分かり得なかったけど、今なら。


今の父が、どんな表情をしているかなら、なんとなく分かる気がする。



「……父さんも、身体に気をつけてよ」



言いながら、小さく零れた笑み。

扉を開けて外に出ると、先程のナースステーションで俺達が消えた部屋を心配そうに見つめていた一人の看護師と目が合って……


ああ……、と思った俺は、足を止め、父をよろしくお願いしますという思いを込めて一度だけ頭を下げると、足早に病院を後にした。


 
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