たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
先輩と過ごす時間は例え場所が図書館で、デートなんて言えるものじゃなくても、私にとっては掛け替えのない大切な時間。
そして、図書館で同じ時間を過ごしたあとは必ず、先輩は私を家まで送ってくれた。
図書館では勉強に集中しているせいで会話のやり取りもしないことが多く、その代わりにそんな風に送ってもらった帰りは家の前で立ち話をすることが増えた。
─── そんなある日。
偶然買い物帰りのお母さんと先輩が、家の前で出食してしまったのだ。
別に、先輩とのことを隠したいとか、お母さんには話したくないとかそういう気持ちはなかったけれど……なんて、説明したらいいのかもわからなくて。
だって、友達なのか、ただの先輩後輩の関係なのか、知り合い……程度のものなのか。
お母さんに心配を掛けたくなくて、先輩と出会うキッカケとなった痴漢のことも話していなかったから、余計に話しづらいというのもあった。
上手く説明できる言葉も見つからないし、更には思いがけず訪れた遭遇に、何も心の準備をしていなかった私は、ただ狼狽えてしまって……
だけどそんな私とは裏腹に、樹生先輩は呆然としているお母さんに向けて極上の笑みを見せると、丁寧に頭を下げた。