たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
 


「初めまして、僕は相馬 樹生と言います。今、高校三年で、栞さんとは最近仲良くさせて頂くようになって。今日も図書館で一緒に勉強をしていたら遅くなってしまったので、こちらまでお送りさせて頂きました。大切な娘さんを遅くまで付き合わせてしまって、すみません。次からは、もう少し早く送り届けられるよう気を付けます」



スラスラと、柔らかな物腰でそんなことを言う先輩に「あらぁ」なんて言葉を零し、顔を綻ばせたお母さん。


どんな状況でも臨機応変。年代問わず相手を魅了してしまう小悪魔な先輩に、お母さんもスッカリ気を良くしてしまったのだ。


それからというもの、図書館の帰りに送ってもらうと、樹生先輩はほぼ必ずお母さんへの挨拶を兼ねて軽い世間話をしていった。


気を遣わなくていいです、大丈夫ですと何度か伝えたのだけれど、先輩は最低限の礼儀だからと頑なに譲らなかった。


律儀というか、抜け目ないというか、先輩はやっぱり人の心を解く術を熟知していて。


結局夏休みの間中、先輩がそんな風に丁寧に対応し続けたものだから、お母さんもスッカリ樹生先輩の虜(とりこ)になってしまったのだ。


 
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