たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
怖かった。本当に本当に、怖かった。
思い出したくもない出来事だし、なんだかアレは夢だったんじゃないか、なんて現実逃避さえしたくなる。
だけど、あの時もしもこの人が助けてくれなかったらと思うと……考えるだけでゾッとして、鼻の奥がツンと痛んだ。
「……もっと早く、俺が気付いてあげられたらよかった」
「……っ、」
「ごめんね?」
酷く柔らかな声でそう言った彼は、眉を八の字に下げて悲しげに微笑む。
そうして改めて─── 私を痴漢と転倒から助けてくれた、目の前の彼を見てみれば。
この人……本当に、高校生なのかな。
着ている制服は、この駅では良く見掛ける制服で、北口を降りてしばらく歩いた先にある男子校のものだとわかった。
学ランに着いているバッジの色が、その高校の3年生のものだから、年は私の一つ上だろう。
ただ、たった一つ上だとは思えないほど、彼の放つ空気が私の通う学校の男子生徒とは比べものにならないくらい、酷く大人びたものを持っていた。