たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
柔らかに微笑む先輩。
斯く言う私は、これが夢か現実かも曖昧なまま、ただ呆然と先輩を見つめることしかできなかった。
そんな私の顔を見て、「栞、面白い顔になってるよ?」なんて。
いつも通りの声色と調子で先輩がそんなことを言うから、張り詰めていた心が自然と緩んでしまう。
けれど、そんな風に普通でいるのは先輩だけで、それだけで全てが日常に戻るほど、今の私を囲む空気は優しくない。
「あ、あんた誰だよ……っ」
「っていうか、その制服……駅向こうの男子校の制服じゃ……」
再び、ざわめき出す教室。
先程まで声高々に正義を語っていたクラスメイト達は、戸惑い混じりに棘のある言葉を吐き出した。
だけど、それにも少しも動じることのない先輩は、彼らを視線だけで一蹴すると、その瞳をゆっくりと黒板へ移した。