たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
 


本当に、ただ、それだけだった。


痴漢のオッサンに対する、情け心なんか少しも持ち合わせてはいなかったし、あんな卑劣なことが出来る人間を、心の底から軽蔑してる。


……でも、



「……痴漢のオッサンに罪はあるけど、その家族に罪はない。オッサンの奥さんや、いるかわからないけど……もしも、子供がいたらさ。俺達と同じ、受験生でも可笑しくない」


「樹生……、」


「そう思ったら、オッサンの腕を掴めなかった。……アキやタマは、こんなこと理解出来ないかもしれないけど。でも、多分、次にそんな奴を見つけても、俺はまず第一にそこを気にして、躊躇し続けるんだと思う」


「……、」


「まぁ結局、自分が悪者になる勇気と罪悪感に耐えられる気がしなかったから捕まえなかっただけだから。だから……あの子には、申し訳ないことしたな、とは思うよ」




そう言って自嘲の笑みを零した俺に、二人はもうそれ以上、何も言わなかった。


 
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