たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
【突然、すみません。私は声が出ないので、携帯にお願いしたいことを書かせて頂きました。もし、あなたにお時間があれば、私を3−Aの、相馬 樹生さんのクラスへ連れて行ってくれませんか?】
それだけを書いた画面を開くと、キョロキョロと辺りを見回す。
と。私を見ている学生の一人が目に付き、足早にその人の前まで駆け寄ると、顔を確認する間もなく携帯を差し出し深々と頭を下げた。
「……は?え、何?はぁ?」
「(すみませんっ、お願いします!!)」
「え?……は?あ、ああ…………ふぅん……」
突然の私の行動に、最初は戸惑いながらも携帯に書かれた文章を読んで納得してくれたらしいその人は、私を見てニヤリと口端を上げた。
そんな表情の変化に承諾してくれたのだと思い一瞬胸を撫で下ろした私だけれど、そこで初めて自分が声を掛けた人の容姿に目がつく。
樹生先輩と同じ制服を着ているけれど、それがまるで違うものに見えてしまうくらいに緩く崩された着方。
シャツのボタンは第3ボタンまで開けられているし、開いた胸元からは銀色のネックレスが光る。
耳にはいくつもピアスがぶら下がっていて、前髪は片方が長く伸ばされ、カラーコンタクトを入れているらしい片目を覆っていた。
目が合えばニヤリ、と。厭らしく細められた目に、思わず背中に冷汗が伝った。