たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
「……樹生、帰るぞ」
昇降口まで降り、靴を履けば今度はぶっきらぼうに投げ掛けられた言葉。
それに足元へと落としていた視線を上げれば、自分に良く似た瞳が制服姿の俺を真っ直ぐに捉えていた。
「……迷惑掛けて、ごめん」
突然担任に呼び出され、仕事を早めに切り上げることを余儀なくされた父はスーツ姿のままで、手には仕事用の大きな鞄も持ったままだった。
そんな父の前まで行くと申し訳なさで居た堪れなくなり、思わず視線を落としてしまう。
すると今度は父からも、呆れ返ったような溜め息を渡された。
だけど、その溜め息は、つい先程まで学校内で寄越されていたそれとは違って、俺の心に酷く重く伸し掛かる。
─── あいつを殴ったのは、衝動的なものだった。
あの時は我を忘れて、その後に自分がどうなるか、そのせいで周りにどれだけの迷惑を掛けることになるのかなんて、少しも考えていなかった。
だけど、事情を聞かれる為に職員室まで連れて行かれる最中、俺の頭の中は酷く冷静さを取り戻して。
この後、学校から最悪の場合停学くらいの処分を下されること。
それによって、大学の推薦は諦めることになるだろうな……と、そんなとこまでしっかりと考えることができていた自分は、案外暢気だなとすら思った。