たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
そんな先輩の仕草と言葉に思わず顔を赤くすれば、先輩は私の髪を優しく撫でながら再び何かを決意したかのようにゆっくりと、言葉を紡ぎ始める。
「本当は……もう一つ、栞に言いたいことがあったんだ」
そう言うと、つい先程までの余裕を消して、突然自信をなくしたように眉を下げる。
「……俺は、本当に、どうしようもない奴だったから。推薦を貰う予定だった大学は、ただ父親への当て付けみたいな気持ちで受験をするつもりだった。俺でも簡単に、こんな大学は入れるんだぞ……って」
ギュッ、と。力なく握られた手は小さく震えていて、これから先輩が何を私に伝えようとしているのか。
その真意を一欠片も零さぬように、先輩の声に耳を傾ける。
「だから、本当に……合格通知を貰った大学は、自分が将来どうなりたいのかを見つめ直した上で選んだ大学だった。こんなこと言ったら、栞に軽蔑されるかもしれない。そんな理由で、って、呆れられるかもしれない。でも…………」
“でも”、と。そう言った先輩は、震える手で私の手を引き上げて、その手の甲にそっと触れるだけのキスを落として私を見つめ───
「……俺、精神科医になりたいんだ。栞みたいに……自分では抱えきれない心の傷を負った人を救えるような、そんな医者になりたいと思った」
「っ、」