たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
「(─── はい、栞さん!これ、飛んできたよ!)」
「(ありがとう)」
薺(なずな)の押し花のシオリを手に持ち、病院内の中庭のベンチの上で身動きの出来無くなっている私の元に駆け寄ってきた男の子。
耳に補聴器を付けているその子の手話を受け取りながら、私も同じようにその子に手話で言葉を返した。
指を動かすたびに光る、左手薬指のシルバーリング。
ふと視線を下に落とせば、同じものが愛しい彼の薬指にも光っていて、思わず笑みが溢れた。
「(そういえばね、昨日、栞さんを探しに相馬先生がナースステーションに来て、看護師長さんに仕事中でしょって怒られてたよ!)」
「(ふふっ、その話、私も師長さんから聞いたよ)」
「(相馬先生は、栞さんにいつも会いたいんだからって師長さんが呆れてた。それにしても……先生、ぐっすり寝てるね?)」
「(……うん。起こさないように、このまま一緒に内緒話、しよっか?)」