たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
「手話は?出来るの?」
「(いえ……ほんの少しは出来ますけど、ほとんど携帯電話で会話しています)」
「へぇ、そうなんだ。でも、ああ、うん。文字打つの速いね」
「(はい、よく言われます。……声が出なくなって、もう5年間が経つので。気付いたら、文字打ちだけこんなに速くなっちゃって……)」
─── 電車内。
隣に座る彼女に言葉を投げれば、彼女はとても慣れた様子で携帯電話を使って俺に言葉を返した。
彼女に生徒手帳を返したあと、駅の改札前で立ち話を続けるのも変だし、と切り出したのは自分だった。
「最寄駅はどこなの?」と尋ねれば、俺が降りる駅を示した彼女。
その偶然に驚きつつ「俺も同じ駅だよ」と彼女に告げれば、彼女は俺以上に驚いた様子で、その大きな目を見開いた。
(……偶然って、重なるときはよく重なる)
そうして、今のこの状況に至るわけだ。
今朝初めて話した彼女と、こうして2人で並んで座っている。
巡り会わせ、なんて信じていなかったけど、こういうことを言うんだろうなぁ……なんて。柄にもなく、そんなことを頭の片隅で考えた。