たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
 


【心因性失声症】


失声症の原因のほとんどが、ストレスや心的外傷によるものらしい。


もちろん例外はあるだろうけど、失声症を患う人のほとんどが、そういったことが原因で声が出なくなる、らしい。


彼女の話を聞けば、もう5年ということだから……期間としてはかなり長い。


ということは、彼女が声を失う【キッカケ】となった出来事は、彼女にとって、かなり辛い出来事だったのだろう。


俺は心の中でそんなことを考えながらも、決してそれを表情と声に出すことなく彼女を見つめた。



(……睫毛、長いな)



悲しげに目を伏せる彼女の睫毛に、夕陽が放つ光の粒が乗る。


セミロングほどの艶のある黒髪と黒目がちの瞳、淡いピンク色の唇が、白い肌に良く映える子だと思った。


背は俺の肩くらいだったし、女の子としたら平均、かな。



─── 彼女はこの華奢な身体に、どんな過去と悲しみを背負っているんだろう。



ぼんやりとそんなことを思った時、電車のアナウンスが俺達の降りるべき駅が来たということを教えてくれた。


 
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